Photo by:elle pupa
今回は番外編。
漆×現代建築のお宅のインテリア提案をさせて頂いていた時期に、プライベートで
結婚式を予定していてその準備に追われていました。
式を挙げるのは、杉本 貴志氏デザインのグランドチャペル。
Photo by:elle pupa
杉・ウォルナット・大理石。
シンプルに構成されたこの空間に持ち込むのは、可愛らしいリングピローでは無く
組子のBOXがあったらすてきだなぁとイメージが膨らみ、吉原さんに相談してみた
のです。
すると漆のお宅へ納めるあれこれや、それ以外にも沢山のご依頼でお忙しい中、
吉原さんがオリジナルでデザインし、作成して下さいました!
組子のBOXは式場スタッフの方々にも大好評で、お世話になったプランナーさん
からは、はこんなに雰囲気にあったリングケースは見た事がありません、との嬉
しいお言葉まで。
後日このBOXは『Jewelry Box』として、製品化されました。
私のお願いから人気商品が生まれたというのも、嬉しいものです。
吉原木工所のある、島根県浜田市のふるさと納税の品に出すとあっと言う間に品
切れとなる人気ぶり。ホテルのバイヤーの方や海外からのお問い合わせも多いとか。
麻の葉 / 檜
Photo by:吉原木工所
重ねりんどう / 檜
Photo by:吉原木工所
『Jewelry Box』は檜で作られていますが、私のBOXだけは漆のお宅のあの欄間・
引き戸製作で出た、最高級の地松の端材でつくられた特別バージョン。
多くの経験をさせて頂いた、思い入れのあるお宅で使用した材料なので感慨もひと
しおです。
松は加工が大変で癖がでやすく、手にくっついて刃もすぐ切れなくなり、職人
泣かせの材なのだそうです。
吉原さん、もう松で小物は作らない!と笑って仰っていました。
この小さなBOXに、細工を施す技術の高さに感動してしまいます。
Jewelry Box第一号、最初で最後の、地松仕様限定版。
一生、大切に使わせて頂きます。
本当にありがとうございました。
照明に建具の手配を済ませて、家具のコーディネートやカーテン計画も
佳境を迎えていた頃。
表札のデザインについても提案を、とご依頼を頂きました。
欅の無垢材にシンプルに名前をと予定されていたのが、「もっと面白く
出来ないか」と仰られたとの事。
木をテーマとし、テイストや樹種を揃えず、あえてバラバラの物で構成
される事に拘りがあるお客様の事。
「何か」を盛り込みたいのであろうと思いましたが、新たな物を入れる
より既にポイント使いをしている組子で繋ぎ、文様だけを選ぶ案を作成
してご覧頂く事にしました。
これが、表札となる欅。
木目の表情がユニークで、お客様のお好きなエッセンスが読み取れます。
237×187の板に、樹種を変えて作成した組子を入れます。
文様やバランスを変えて大工・設計とも検討し、決定したのがこちらの案。
小口の処理などは、弊社大工を率いる桜井大工にアドバイスを頂きました。
桜井大工は建築から蕎麦猪口まで作ってしまいます。
豊富な知識と経験からたくさんのアドバイスを頂き、完成に至りました。
これが、取付後の写真です。
…どちらかというと郵便受けに目が行ってしまいますが。
お客様のお好きな世界観が良く表れているなあ、と思いチョイスしました。
オリジナル表札デザインも、気に入って頂けたようで何よりです。
和室3枚引の障子+欄間。
テーマは、シンプルながら風格の漂う「潔さ」を感じられる障子。
素材やデザイン共に、MIXスタイルがお好みのお施主様ですが、この建具に関し
ては、あまり多くの細工を入れずにまとめたい、と考えていらっしゃいました。
そこで書院障子の中でも格式が高く、高級品にしか見られない「桐麻(きりあさ
)」に極細の縦格子で構成し、欄間も同じ文様で揃える案をご提案。
◇桐麻文様
他の和室では、アンティークの建具を購入したりごくシンプルな建具を制作して
納めていますが、この和室に関しては私のこのご提案後から組子でオリジナルを
制作することに拘られました。
このデザインで、と決まった時は本当に嬉しかったです。
□組手腰 画像赤丸部分
障子と欄間には組手腰(くでごし)と言う細工を施してあります。
ちなみに、二条城に使われている障子は全て組手腰で製作されています。
この組手腰細工、大きな面取りをするための組手の細工で、繊細で手間がかかる
ので一般的な障子ではほとんど見られませんが、全国建具大会に出品される様な
障子には施されている事もあるそうです。
技術を持っている職人が減少しているのも理由のひとつなのでしょう。
しかし、お父様の代から建具製作をされていて熟練の職人さんが在籍する吉原木
工所さんでは可能です。お宅の格にあった建具としたいから、と吉原さんからご
提案を頂き手間を掛けて、丁寧に作って頂きました。
文様の桐麻も複雑な仕口になっているため、お師匠様から教わるのも4年目以降と
なる難しい物なのだそうです。
こちらも当然、通常の障子を制作するより時間が掛かります。そこでお客様には
、この細工でお作りするのであれば建築のお引渡しには間に合わない事をご説明
し、制作時間を頂きました。
最高級の銘木を使い、デザインをおこして、手間の掛かる細工を施して作る。
昨今の住宅では、効率良く余計な手間を掛けずに建てるのが良しとされています。
もちろんそれも大事な事です。
ですが、建具や家具などインテリア(内装材含む)に関しては何でも手間を省くの
が必ずしも良いとは限らないのです。
建築、その工期や予算と擦り合わせの上、かけるべき手間はきちんと掛けて揃えて
いく事で豊かな空間が生まれると思います。